転職ノウハウ
長野県東信地域の経済・雇用状況2025
東信地域の概要と主な産業
長野県の東信地域は、県東部に位置し、上田市・小諸市・佐久市・軽井沢町とその周辺町村から成る地域です。人口約50万人弱を擁し(長野県全体の約4分の1)、上信越自動車道や北陸新幹線によって首都圏に近く交通利便性に優れるエリアでもあります。
古くは製糸業が盛んで「蚕都」と呼ばれた歴史があり、現在では製造業を中心に、農業や観光まで多様な産業がバランスよく根付いています。
各市町村ごとに特色ある産業が発展しており、県内でも経済的に重要な役割を果たす地域となっています。
主要産業の特徴と動向
製造業(ものづくり産業)
東信地域の経済を牽引しているのは製造業です。県内有数の「ものづくり」産業集積地であり、事業所数・従業者数ともに長野県内で上位に入ります。
特に上田市は製造業の従業者数が県全体の9%を占めるなど突出しており、市内総生産に占める製造業の割合も高くなっています。東信地域全体でも、全産業の付加価値額のうち約半分近くを製造業が占めると言われ、産業構造上の大きな特徴となっています。
製造業の分野を見ると、地域によって集積する業種に違いがあります。上田市や東御市(旧小県郡エリア)周辺は、自動車部品や輸送機器関連産業が集積していることが特徴です。
これは、戦中に首都圏から工場疎開してきた企業群が多数立地した歴史的経緯も背景にあります。例えば上田市には戦前創業の精密モーター製造メーカー「シナノケンシ株式会社」や、80年以上の歴史を持つ計測機器メーカー「日置電機株式会社」など地元発祥企業が存在する一方、自動車エンジン用ピストン専業の「アート金属工業株式会社」や、自動車パワーウィンドウ機構を製造する「株式会社城南製作所」、アルミダイカスト部品の「日軽松尾株式会社(旧・松尾製作所)」など、自動車の心臓部品・機構部品を手掛ける企業が数多く立地しています。
圧力計測の世界的メーカー「長野計器株式会社」も上田市に本拠を構え、精密機械分野で存在感を示しています。上田市内のこれら製造業は、自社で設備設計から製造まで行う高度な技術力を有し、国内外のマーケットで活躍する企業も少なくありません。
一方、佐久市や小諸市など佐久平エリアでは、精密部品加工や機械金型産業が集積しています。
冷涼で降水量の少ない佐久地域の気候は、精密機械工業に適するとされ、戦後に電子部品や時計部品の工場立地が進みました。
佐久市には半導体製造用の真空ポンプで国内トップシェアを誇る「樫山工業株式会社」や、自動車用ブレーキ部品など摩擦材の大手「エムケーカシヤマ株式会社」があり、世界の高度なクリーン化ニーズに応える技術を持っています。
また佐久市の「長野吉田工業株式会社」や「吉田工業株式会社」はプラスチック容器成形からアルミ精密加工まで行い、自動車・建機・医療分野の重要部品を製造しています。このように佐久地域は金属加工や精密部品、生産用機械分野で成長してきた経緯があり、「精密のまち」としての側面を持ちます。
さらに、東信地域には世界的シェアを持つ優良企業も存在します。例えば上田市の「オルガン針株式会社」はミシン針で国内シェアトップを誇り、世界市場でも活躍する老舗メーカーです。
佐久市の樫山工業株式会社(前述)も真空ポンプで国内トップシェアを持ち、スキー関連機器の製造も手掛けています。また、北佐久郡御代田町にはシチズングループの拠点があり、腕時計用精密部品や水晶デバイスを製造する「シチズンファインデバイス株式会社(旧・ミヨタ)」、さらに工作機械部門で世界シェアNo.1のCNC自動旋盤メーカー「シチズンマシナリー株式会社」が立地しています。
これら大手企業の事業所は、東信地域を代表する先端精密産業の一翼を担い、高度な加工技術と研究開発拠点として地域経済に貢献しています。
製造業全体として見ると、東信地域では電気機械、精密機械、輸送用機械といった分野の工場が多く、統計上も製造品出荷額は上田市が約5,200億円規模(2019年)と県内第4位、佐久市も約2,000億円弱と上位に入ります。
製造業就業者の割合も県平均を上回っており、5人に1人以上が製造関連の仕事に就いている計算になります。こうした「ものづくりDNA」を受け継ぐ産業集積は、明治期の製糸業、戦後の精密機械産業、近年の電子・ICT関連産業へと常に新分野に挑戦し続けてきた歴史の積み重ねによるものです。
今後も地元の産学官連携拠点「浅間リサーチエクステンションセンター(AREC(エーレック))」を軸に、新素材やロボット・次世代移動体など成長分野への取り組みが期待されています。製造業各社でもIoTやAIを活用した生産性向上、カーボンニュートラル対応など新たな課題に挑戦しており、東信地域のものづくり産業は高度化と変革を続けています。
農業・食品産業
長野県全体と同様に、東信地域でも農業が盛んです。雨が少なく日照時間の長い内陸性の気候や、標高差を活かした多彩な農産物の生産が行われています。
高原野菜は東信地域を代表する農産物で、夏季の冷涼な気候を活かしてレタス・キャベツ・白菜などが栽培されています。特に佐久穂町から群馬県境にかけての八ヶ岳山麓や立科町の蓼科高原周辺では、夏秋野菜の一大産地となっています。昼夜の寒暖差が大きいため、糖度の高いおいしい野菜が育つことから、首都圏市場にも多く出荷されています。
果樹栽培も東信地域の農業の特色です。佐久市(旧臼田町)は実は日本におけるプルーン栽培発祥の地であり、現在でも佐久地域はプルーン(西洋すもも)の主要産地です。栄養価が高いプルーンは全国的にも“ミラクルフルーツ”と呼ばれ健康食品として人気があり、佐久地方産の生プルーンやドライプルーンが市場に出回っています。
東御市や坂城町はぶどうの名産地です。東御市は巨峰やシャインマスカットなど高級ぶどうの栽培が盛んで、「千曲川ワインバレー東地区」としてワイン用ブドウの産地にもなっています。近年、東御市や小諸市には個人経営のワイナリーが次々と誕生し、東信地域は国内有数のワイン産地として知名度を高めています。醸造用ブドウ栽培に適した水はけの良い土壌と長い日照時間という条件を活かし、高品質な信州ワインが全国的にも評価され始めています。
さらに、東信地域はクルミ(胡桃)の生産量日本一を誇ります。東御市や上田市丸子地区などが主産地で、品種「信濃ぐるみ」を中心に栽培されています。長野県産クルミは昔から製菓材料として需要が高く、最近では健康志向からナッツ類の国内需要が増えていることも追い風となっています。地域のブランドを守るため、くるみの苗木を地域外の者が購入することができないなど、ルールも整備されています。
各地でクルミを使った特産品(クルミそば、クルミ菓子など)も作られており、地域のブランド産品になっています。加えて、上田市や佐久市ではそば(信州そば)の栽培も行われています。上田市真田地域や青木村の在来種そば(例:「タチアカネ」そば)は香り高いブランドそば粉として知られ、地元の手打ちそば店で提供されるなど観光資源にもなっています。
畜産・酪農分野では、佐久地域の高原地帯で酪農が営まれています。南佐久郡小海町や佐久穂町周辺は牛の放牧に適した草地が広がり、生乳生産やチーズ・ヨーグルト加工なども行われています。八ヶ岳山麓の「高原牛乳」やナチュラルチーズは隠れた名産で、都市部のファンも多いです。
東信地域ではこのように農畜産物の種類が多彩で、県内トップクラスの生産量を占める品目も複数あります。農産物直売所や道の駅も各所に整備され、新鮮な野菜や果物を求めて訪れる人も増えています。農業従事者の高齢化や後継者不足といった課題はありますが、地域ぐるみで6次産業化(農産物加工・販売)や観光農園の取り組みが進みつつあり、地元農業の活性化が図られています。
観光・リゾート産業
東信地域には豊かな自然環境と歴史文化資源があり、観光業も地域経済の重要な柱です。中でも軽井沢町は全国有数の高原リゾート地として知られ、避暑地・別荘地として明治時代から発展してきました。軽井沢には年間を通じて多くの観光客が訪れ、夏季の避暑やテニス・ゴルフ、秋の紅葉、冬のウインタースポーツまで季節ごとの魅力があります。
大型商業施設「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」には国内外から買い物客が集まり、ホテルや旅館、レストランも数多く営業しています。インバウンド(訪日外国人観光客)の人気も高く、コロナ禍以降はワーケーション(リゾートテレワーク)の場としても注目を集めました。
首都圏から新幹線で1時間強という地の利もあり、週末移住や二拠点居住をする人も増えていることから、軽井沢の観光産業は今後も安定した需要が見込まれます。
上田市も歴史と温泉の観光地として魅力があります。戦国武将・真田氏ゆかりの上田城跡公園は年間を通じ観光客が訪れ、特にNHK大河ドラマ放映時には「真田丸ブーム」で賑わいました。上田市別所温泉は信州最古の温泉とも言われ、美人の湯として親しまれる名湯です。別所温泉街には老舗旅館や外湯があり、近年は地域住民や移住者によるカフェ・ギャラリーの新規開業もあって若い観光客の姿も見られます。
また上田市はスポーツ合宿のメッカでもあります。菅平高原は夏でも冷涼な高地環境を活かして、多くの大学・企業のラグビーや陸上競技の合宿地となってきました。冬はスキー場となり、こちらも全国からスキーヤーを集めています。菅平や東御市湯の丸高原には高地トレーニング施設も整備され、オリンピック選手の合宿も行われています。こうしたスポーツツーリズムも地域振興に寄与しています。
佐久地域にも見どころが点在します。小諸市の懐古園(小諸城址公園)は桜や紅葉の名所で、島崎藤村の文学ゆかりの地としても知られています。佐久市旧望月町エリアには全国でも珍しい五稜郭式の城跡「龍岡城五稜郭」があり、幕末ファンや史跡好きが訪れます。
立科町の白樺湖・女神湖周辺はレジャー施設やリゾートホテルがあり、蓼科高原エリアとして夏冬問わず観光客が訪れるスポットです。東信地域南部の温泉地としては、長和町の鹿教湯温泉や霊泉寺温泉、青木村の田沢温泉など山里の名湯もあります。いずれも開湯の古い温泉で、湯治や静かな癒やしを求める旅人に人気です。各温泉地では近年、廃業した旅館の再生や地域イベントによる誘客なども行われており、観光資源の磨き直しが進められています。
観光産業の雇用面では、ホテル・旅館のサービススタッフや飲食業、レジャー施設のスタッフなど、多くの仕事機会を創出しています。特に軽井沢町では慢性的な人手不足が課題となっており、繁忙期には近隣からの通勤者や短期アルバイト、さらには海外からの技能実習生などで人員を補っている状況です。
観光客数は2020~2021年頃に新型コロナウイルスの影響で大幅減少しましたが、2023年以降は回復基調にあり、国内旅行需要に加えてインバウンド客も戻りつつあります。今後は観光業界でのDX(デジタル技術活用)や多言語対応などサービス向上が求められるとともに、安定的な人材確保が引き続き重要な課題となるでしょう。
地域としても観光と産業の融合(例:ワインツーリズムや農泊体験)など新たな付加価値づくりに取り組んでおり、観光産業は他産業への波及効果も含め発展が期待されています。
その他の産業分野
東信地域では、上記の製造・農業・観光以外にも様々な産業が地域経済と雇用を支えています。商業(卸売・小売業)は、上田市や佐久市といった中核都市に大型店や商店街が集積し、近隣地域の購買需要を取り込んでいます。
例えば上田市中心部には地元百貨店や商業ビルがあり、郊外にはショッピングセンター(アリオ上田など)が立地しています。佐久市にも佐久平駅周辺にイオンモール佐久平や大型専門店が進出し、広域商圏を形成しています。小売業は地域住民の生活を支えるとともに、観光客向け土産品販売など観光消費とも関連しています。近年はネット通販の普及により地方小売店の苦戦も指摘されますが、一方で道の駅や直売所、地域商社による地場産品販売など新たな取り組みも見られます。
医療・福祉分野も雇用規模が大きい産業です。東信地域には「佐久総合病院(佐久医療センター)」をはじめ、大規模な中核医療施設があります。佐久総合病院は戦後間もなく設立された地域医療のモデル病院で、現在も地域住民の健康を支える存在です。
上田市にも上田地域医療センターや長野大学附属の医療施設があり、医療従事者や介護職の雇用機会が多くあります。高齢化が進む中、介護施設や高齢者向けサービスも増えており、介護職員・ヘルパーの需要は高止まりしています。看護師や介護士の求人は常に多く、県や市も就業支援策を講じています。
また、東信地域には教育機関として理系の学部である信州大学繊維学部(上田市)や長野大学、短期大学等があり、高等教育・研究分野の人材も一定数存在します。産学官連携による技術開発や人材育成の取り組みは、将来的に医療福祉テック分野など新産業の芽を育むことが期待されています。
建設業は、地域インフラの維持や住宅建築、リゾート開発などで安定した需要があります。高速交通網の整備が進んだこともあり、近年は佐久小諸JCTから静岡市の新清水ジャンクションを結ぶ中部横断自動車道の延伸工事や、老朽化したインフラ更新事業が各地で行われています。
地域の建設業者は公共工事だけでなく、住宅リフォームや観光施設の建設など民間需要にも対応しており、技能者不足に対応するため技能実習生の受け入れや機械化施工の導入なども進めています。
2025年現在、建設業の新規求人は前年に比べ増加傾向(有効求人倍率は業種別で約1.3~1.4倍)にあり、人手不足が顕在化しています。地域経済を下支えする産業として引き続き重要な位置づけにあります。
主な企業と雇用動向
東信地域には規模の大小様々な企業が存在しますが、地域を代表する主要企業として以下のような例が挙げられます(※括弧内は所在地):
- シナノケンシ株式会社(上田市) – 1918年創業。精密小型モーターや産業機器、福祉機器などを製造する老舗メーカー。もとは製糸用機械メーカーとして創業し、現在はブラシレスモーター技術などで世界展開しています。地元に根差しつつグローバルニッチトップ企業として成長を続けており、技術系・開発系の求人が見られます。
- 日置電機株式会社(上田市) – 1935年創業。電気計測器の専業メーカーで、「HIOKI」ブランドは計測器業界で国際的に評価されています。上田市に本社・工場を構え、研究開発から生産まで一貫して行っています。次世代自動車や再生エネルギー分野の計測需要が拡大しており、技術開発職を中心に人材募集が継続的にあります。
- アート金属工業株式会社(上田市) – 1944年創業。自動車エンジン用ピストンの専門メーカーで、国内シェアの大部分を占めるリーディングカンパニーです。高度な鋳造・加工技術を強みとし、レース用エンジンのピストンも手掛けるなど高性能製品に定評があります。エンジニアや製造技能職の採用が活発です。
- 城南製作所株式会社(上田市) – 1948年創業。自動車のドア開閉機構(パワーウィンドウ用レギュレータなど)を開発・製造する部品メーカーです。大手完成車メーカーと取引があり、安全装置や電動機構の分野で専門性を持っています。自動車業界の電動化に伴い、新製品開発のための設計技術者の求人などがみられます。
- オルガン針株式会社(上田市) – 1920年創業。家庭用・工業用ミシン針のトップメーカーで、世界シェアも有する隠れたグローバル企業です。繊維・縫製産業の変化に対応し、医療用針など新分野にも進出しています。小規模ながら専門性が高く、品質管理や生産管理の人材募集が行われることがあります。
- 上田日本無線株式会社(上田市) – 1942年創立。日本無線(JRC)の上田事業所が独立した会社で、医療用超音波装置や無線通信機器を製造しています。医療×無線技術の融合製品開発を特徴とし、上田の地で培った通信技術を医療分野に応用しています。親会社の経営統合に伴う組織再編を経ても事業は継続しており、エンジニアの中途採用求人が散見されます。
- 長野計器株式会社(上田市) – 1896年創業の圧力計メーカー。本社は東京ですが上田に主力工場があり、精密な圧力計やセンサーを製造しています。世界最大級の圧力計生産量を誇り、自動車・産業機械から宇宙開発まで幅広い分野に製品を供給しています。上田工場では製造技術者や品質保証担当などの求人があり、ものづくり現場を支える人材が求められています。
- 樫山工業株式会社(佐久市) – 1951年創業。真空ポンプ装置で国内トップクラスのメーカーであり、半導体製造装置分野で重要な役割を担っています。また、スキー場向け人工降雪機などスキー関連機器も手掛けるユニークな企業です。技術力に定評があり、毎年新卒・中途問わず技術職の採用を行っています。
- エムケーカシヤマ株式会社(佐久市) – 1962年創業。ブレーキパッド・ライニングなど自動車用摩擦材の専門メーカーです。世界的にも評価の高い製品を持ち、近年は建設機械や産業機械向け摩擦材にも事業を拡大しています。製造オペレーターから開発まで幅広く人材募集があり、女性技術者の活躍も進んでいます。
- シチズンファインデバイス株式会社 御代田事業所(御代田町) – 1979年操業(前身の御代田精密は1959年設立)。旧・ミヨタブランドで知られる時計用ムーブメント(クオーツ時計の心臓部)や電子部品を製造するシチズングループの中核工場です。近年は水晶振動子やセラミック部品など精密加工技術を活かした製品も多く、従業員数はグループ全体で900名以上にのぼります。勤務地として地域外からのIターン就職者も多く、精密加工技術者や設備保全担当などの求人が定期的に出ています。
- シチズンマシナリー株式会社(御代田町) – 1978年設立。シチズン時計から独立した工作機械メーカーで、CNC自動旋盤(小型精密加工用の工作機)の分野で世界トップシェアを獲得しています。本社・開発拠点が御代田にあり、国内外に販売網を展開。高度な機械設計技術を持つ企業として、機械系エンジニアの人気就職先になっています。近年も海外需要に対応するため人員増強中で、機械設計・電気制御・サービスエンジニアなど専門職の採用情報が見られます。
以上のような製造業関連企業のほか、小売・サービス業では明治25年創業のスーパーマーケット「ツルヤ」は、地域密着型の店舗運営と高品質なオリジナル商品で、東信地域を代表する流通企業です。小諸市に本社を構え、長野県内を中心に50店舗以上を展開。特に地元農産物や加工食品に強みを持ち、地域経済への貢献度が高く。特徴のひとつは、自社開発の「PB(プライベートブランド)商品」の豊富さと品質の高さである。ジャムやお菓子、乾物類など、地元産素材を使った商品は観光客からの人気も高く、地域外からの「ツルヤ目当ての来店客」も少なくない。観光産業との親和性も強く、地域活性化のハブとしての役割も果たしています。
多くのパート・アルバイトを雇用しています。ドラッグストアチェーンやコンビニエンスストアも出店が進み、小売業界の求人も安定して存在します。
観光業では星野リゾート(軽井沢の高級旅館やレジャー施設を運営)やプリンスホテル(軽井沢のホテル)などが大規模に人材を抱えており、サービス業の雇用先として重要です。これらサービス業では接客や調理など未経験可の求人も多く、学生のアルバイトから移住者の就職まで幅広く受け皿となっています。
雇用情勢の概観として、長野県東信地域の有効求人倍率は2023~2025年頃、概ね1.2~1.3倍前後で推移しています。これは全国平均と同水準かやや高い水準で、人手不足感があることを意味します。
特に製造業や建設業では慢性的な人材不足に直面しており、製造業では技能工やエンジニア、建設業では技術者・作業員ともに求人件数が求職者数を上回る状況が続いています。
一方、宿泊・飲食サービス業はコロナ禍で求人が落ち込んだ時期もありましたが、観光需要の回復に伴い2024年以降は持ち直しています。ただし観光シーズンの繁閑差が大きいため、通年での人員確保には課題が残ります。
医療・福祉分野の求人も安定して多く、看護師・介護士などは求人倍率が2倍を超える月もあるなど引き続き人材不足が深刻です。このような状況に対応するため、国の施策として東京圏から地方への移住就業者に最大100万円の支援金を給付する制度(長野県も対象)も活用されており、東信地域の市町村ではUIターン希望者向けに仕事紹介や住居支援を行うケースが増えています。
採用動向の面では、地元主要企業の多くで新卒採用と併せて中途採用にも力を入れています。製造業では技術革新のスピードが速いため、即戦力となるエンジニア人材の確保が課題であり、社宅整備や赴任手当で県外から人材を呼び込む動きも見られます。
また近年は女性やシニアの積極採用、外国人技能実習生・特定技能労働者の受け入れも進み、多様な人材が地域産業を支えています。求人の職種傾向としては、製造分野での機械オペレーターや品質管理、営業職などが多く、IT人材の募集も増加傾向です。
サービス業ではホテルスタッフや販売職、介護職など地域生活に密着した職種が常時一定数の求人を占めています。総じて東信地域は求人倍率が比較的高めで「売り手市場」の側面もあり、企業側は人材確保のため待遇改善や働き方改革(残業削減、テレワーク導入等)にも取り組み始めています。
求職者にとっては、地元企業で腰を据えて働くチャンスが多い反面、産業全体で人材確保競争が起きているため自身のスキルアップが重要になってきているとも言えます。
東信地域の課題と展望
東信地域の産業・雇用状況を見渡すと、いくつかの共通する課題が浮かび上がります。第一に少子高齢化と人口減少です。製造業の集積地とはいえ、地域全体の人口は2000年頃をピークに減少傾向にあり、特に若年労働力の流出が懸念されています。
優良企業があっても都市部へ人材が流れやすい状況を踏まえ、地元高校生や大学生への地元就職促進策(インターンシップ受入れ、企業説明会の開催など)が取られています。上田市などでは2040年代に現在人口を維持する目標を掲げ、移住定住の支援に力を入れています。首都圏からの移住希望者向けに東信地域限定の求人情報発信や、実際に移住した先輩の声紹介なども行われ、一定の成果を上げつつあります。
第二に産業人材の確保と事業承継の問題があります。中小企業が多い東信地域では、経営者の高齢化による事業承継ニーズが高まっています。製造業でも熟練技術者の引退が相次ぐ中で、技能の継承が課題です。このため長野県や商工団体は事業承継マッチングや技術継承研修などを支援しています。
また、ITエンジニアやデジタル人材が不足しており、地域全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上でも人材育成が急務です。幸い上田市にはIT起業家支援施設やプログラミング教育拠点ができ始めており、テレワーク普及も追い風に、都市圏からIT系フリーランスが移り住む動きも出ています。
軽井沢などは自然に恵まれネット環境も整うことで「リモートワークの理想郷」として取り上げられることもあり、将来的に専門人材の誘致につながる可能性があります。
第三に産業の高度化と新分野への対応です。東信地域の基幹である製造業は、グローバル競争や技術革新の波に常に晒されています。半導体市場の変動や自動車の電動化など外部要因で地域企業の業績が上下するリスクもあります。実際、リーマンショック時(2008~2009年)には製造品出荷額が大きく落ち込んだ経験があり、景気変動耐性の強化が課題となりました。
現在は比較的好調を維持していますが、今後に備えて産業ポートフォリオを拡充する必要があります。そこで注目されるのが、医療機器や環境・エネルギー分野、さらには航空宇宙やロボット関連といった次世代産業です。上田市や佐久市など周辺の10市町村で産学官連携の「東信州次世代産業振興協議会」が発足し、既存の業種の垣根を越えて新産業を育成するプロジェクトが始まっています。
例えば、精密加工技術を医療分野に展開する動きや、ドローンなど先端機器の開発拠点誘致、木材産業×ITでスマート林業を推進する取り組みなどが進行中です。地域ぐるみで新たなビジネスの芽を支援しようという動きは、今後の東信地域経済にとって明るい展望をもたらすでしょう。
第四に地域内格差と産業バランスの課題です。東信地域内でも上田・佐久の両都市圏と山間部の町村では、経済規模や雇用機会に差があります。山間農村部では人口減少が著しく、農林業以外の働き口が限られるため、若年層が流出しやすい傾向があります。
こうした地域に対しては、観光資源の開発(例:農村民泊や体験型観光)、都市住民の誘致(田舎暮らし希望者向け支援)などにより地域経済を循環させる工夫が必要です。また東信地域は製造業偏重とも言える産業構造のため、サービス業や情報通信業といった第3次産業の育成も課題です。
テレワークの浸透で情報サービス業の地方分散が期待される中、東信地域でもコワーキングスペースの整備やスタートアップ支援(創業補助金の交付など)を進め、新たなサービス産業の創出に取り組んでいます。こうした産業の多角化が進めば、景気変動に強く持続可能な地域経済につながると考えられます。
総じて、長野県東信地域の経済・雇用は伝統ある製造業を核としつつ、多方面への展開と革新が進んでいます。主要企業は堅調で求人も豊富にあり、地域内で仕事を探す学生やUターン転職者にとって魅力的なフィールドが広がっています。
一方で、人口減少下での人材確保や、中小企業の事業継続、新産業の育成といった課題に地域ぐるみで挑戦していく必要があります。県・市町村・経済団体が連携し、「しあわせ信州創造プラン」に基づく地域振興策や次世代産業の育成策を打ち出していることは心強い材料です。
首都圏に近く自然環境にも恵まれた東信地域は、今後も「働きやすく暮らしやすい地方圏」としてポテンシャルを秘めています。地元で培われたものづくり技術に、新しい人材とアイデアが加わることで、東信地域の経済は持続的に発展し、より豊かな地域社会の実現を進めています。
あなた専任のエージェントが全力サポートします!
SERVICE