転職ノウハウ
長野県南信地域の経済・雇用状況2025
南信地域の概要
長野県南部に位置する南信地域は、諏訪市・岡谷市・茅野市などの諏訪エリアから、伊那市・駒ヶ根市など上伊那エリアは2つのアルプスの麓に位置し、飯田市を中心とする下伊那エリアまでを含む広域な地域です。
人口はおよそ50万人で、全28市町村からなります。北に松本・塩尻地域、東に山梨県、西に岐阜県、南に愛知県と接し、中央自動車道やJR中央本線が貫く交通の要衝でもあります。
地域の中央を諏訪湖からはじまる天竜川が南北に流れ、東西を南アルプス・中央アルプスの雄大な山々に囲まれた美しい自然環境に恵まれています。気候は長野県内では比較的温暖で、標高差を活かした多様な農作物の生産や高原観光地も発達しています。
南信地域は東京・名古屋といった大都市圏へのアクセスが良いことも特長で、経済発展や企業立地を支える一因となっています。今後、飯田市にはリニア中央新幹線の長野県駅(飯田駅)が設置予定であり、また飯田下伊那から愛知・静岡方面へ抜ける三遠南信自動車道の整備も進んでいます。これにより都市圏との交流拡大や物流の利便性向上が期待され、地域経済のさらなる飛躍につながると見られています。
主要産業の特色と地域別動向
製造業(ものづくり産業)の集積
南信地域の経済を牽引する基幹産業は製造業です。長野県全体でも就業者の5人に1人が製造業に従事するとされますが、南信地域ではその比率がさらに高く、地域雇用の柱となっています。
2019年の南信地域(諏訪・上伊那・下伊那を合算)の製造品出荷額は約7,523億9,500万円に達し、長野県全体の約12.2%を占めました。この数値は、県内他地域と比べても上位に位置し、日本の製造業を地方から支える重要な生産拠点となっていることを示しています。
製造業の事業所は中小企業が圧倒的に多く、諏訪地域だけでも約2,000社近いものづくり企業が集積しているとされます。一事業所あたりの従業員数は30~40人規模の中小企業が中心ですが、高い技術力を持つ企業が集まりネットワークを形成している点が特徴です。
諏訪エリア(諏訪市・岡谷市・茅野市ほか)は、戦後に精密機械工業で発展を遂げ「東洋のスイス」と称された伝統ある産業集積地です。諏訪湖周辺にはセイコーエプソン株式会社(本社:諏訪市)を筆頭に、電子・光学・精密機器関連のメーカーが多数立地しています。例えばセイコーエプソンはプリンターやプロジェクター等で世界的企業として知られ、同社を中心にパソコン周辺機器や光学機器、医療機器、ロボット関連まで幅広い分野の企業群が集まっています。
岡谷市は明治期に製糸業で繁栄した歴史を持ち、「シルク岡谷」の名で知られる繊維産業の伝統がありますが、その技術蓄積を背景に現在では精密部品加工の集積地となりました。
「超精密微細加工技術の集積地」と評される岡谷・諏訪地域では、金属切削、プレス加工、金型製造など高度な加工技術をもつ中小企業が多数存在し、諏訪圏工業メッセ(産業展示会)が開催されるなど国内有数のものづくり拠点です。
主要企業としてはセイコーエプソンのほか、ニデックインスツルメンツ(旧・日本電産サンキョー(旧・三協精機)、下諏訪町)やミスズ工業(諏訪市)、株式会社nittoh(諏訪市、光学レンズ・モジュール製造)などが挙げられます。諏訪エリアの製造業は高度な精密・電子部品分野が強みであり、自動車や産業機械向けの高精度モータ、ステッピングモータやセンサ類、光学機器部品などで世界市場を支える製品も生み出されています。
例えばニデックインスツルメンツは各種モーターやカードリーダー、ロボット機器まで多彩な製品を手掛けています。
上伊那エリア(伊那市・駒ヶ根市・上伊那郡)も近年著しい製造業集積を見せています。
上伊那地域は諏訪地域の南に隣接し、「伊那谷テクノバレー圏域」と呼ばれることもある電子機器・部品関連産業の集積地です。
この地域にはKOA株式会社(箕輪町)やルビコン株式会社(伊那市)といった電子部品メーカーが本拠を構えており、それぞれ抵抗器やコンデンサの分野で世界トップクラスのシェアを持つ企業です。また、プリント基板大手の株式会社キョウデン(本社:東京、製造拠点:箕輪町)や、アルミ電解コンデンサ用電極箔専業の信英蓄電器箔株式会社(伊那市)など、電子部品・基板製造の分野で高い技術を持つ企業群が集積しています。
精密機器ではオリンパスグループの長野オリンパス株式会社(辰野町)が顕微鏡や内視鏡部品の製造を担い、ロボット関連では株式会社ハーモ(南箕輪村)が射出成形機用ロボットで国内有数のメーカーとなっています。
加えて、船外機メーカーのトーハツマリーン(駒ヶ根市)が船舶用エンジンを製造するなど、上伊那エリアでは電子機器から輸送機器まで幅広い製造業が展開されています。
近年の動向として、上伊那地域の製造品出荷額が諏訪地域を上回り、県内でも松本地域に次ぐ規模となったことが注目されています。これは、KOAやルビコンに代表される地元大手とその関連中小企業の発展に加え、2000年代以降は組立工程主体の企業から加工工程主体の企業へと構造転換が進んだことによると分析されています。
上伊那地域の製造業者は、首都圏・中京圏の中間に位置する立地を活かし、自動車部品や精密機器部品の受注を拡大してきました。高い加工技術力により諏訪地域との取引・連携も深く、両地域を合わせた南信全体で大きな工業クラスターを形成しています。
下伊那エリア(飯田市・下伊那郡)もまた機械・電子部品産業が集積する地域です。
飯田市には多摩川精機株式会社が本社を置き、高精度センサや小型モーター、ジャイロ装置などを開発・製造しています。同社の技術は航空宇宙分野にも応用され、人工衛星向けの部品供給など宇宙産業分野への展開も行われています。
このほか飯田下伊那には、基板製造の山岸エーアイシー(下條村)など、高度な技術をもつ中小企業が点在します。下伊那地域の工業は、中京圏(愛知県の自動車・航空機産業集積)に近い地の利を得て、自動車関連部品等の下請け生産でも発展してきました。
しかし2008年のリーマンショック時には、それまでの機械・電機系製造業が出荷額の急減や大手メーカー工場の撤退に直面し、地域経済・雇用に大きな影響を受けました。この経験から、飯田地域では従来型の受託生産に依存しない産業構造への転換が図られています。具体的には、将来成長が期待される航空宇宙産業や医療・バイオ産業への参入に多くの企業が挑戦しており、行政や支援機関が一体となって人材育成・研究開発を支援する取り組みが進められています。
飯田市には旧飯田工業高校を改装した「南信州・飯田産業センター(エス・バード)」という産業支援拠点が設けられ、航空宇宙分野の試験設備の整備や、医療・健康関連の新事業創出を目指すクラスター形成などが行われています。下伊那エリアの製造品出荷額は一時期減少しましたが(令和2年時点で約3,338億円)、こうした新分野への挑戦や企業誘致策により、地域産業の再活性化が図られています。
まとめると、南信地域の製造業は精密機器・電子部品から機械・輸送機器部品、さらには近年注目の航空・医療分野まで、非常に幅広い領域にわたっています。諏訪エリアの高度精密技術と上伊那・下伊那エリアの電子部品・機械加工技術が結集し、南信は「日本のものづくりDNA」を継承・発展させる地域として重要な役割を担っています。
中小企業も含めた強固なサプライチェーンと技術者ネットワークが存在することが、南信地域製造業の競争力の源泉と言えます。
農林水産業と食品加工
南信地域は山間地が多く耕地面積は限られますが、標高差と気候の多様性を活かした農業が盛んです。
地域全体の農業産出額を見ると、果樹と畜産が約5割を占めており、リンゴやブドウ、柿などの果物栽培および肉牛・養豚など畜産業が地域農業の柱になっています。
特に飯田市を含む下伊那地域は冬も比較的温暖な気候を利用し、ナシや市田柿(干し柿)といった果樹の一大産地です。飯田下伊那特産の「市田柿」は高品質な干し柿として知られ、2017年に国の地理的表示(GI)保護制度にも登録されました。畜産では南アルプス山麓の豊かな自然環境で肉用牛の肥育が行われ、「信州牛」をはじめブランド和牛の産地にもなっています。
上伊那地域は天竜川沿いと天竜川から水を引き込んだ農業用水路「西天竜川」を活かし、河岸段丘に広がる肥沃な田園地帯で、良質なコメの産地として有名です。伊那盆地産コシヒカリは全国トップクラスの品質と単収量を誇り、高い評価を得ています。
加えて、レタスやハクサイなどの高原野菜、花き(アルストロメリアやトルコギキョウ等)の栽培も盛んです。箕輪町や宮田村などでは全国有数の花き産地となっており、富士見町・原村(諏訪郡)の高冷地野菜、特に原村のセルリー(セロリ)は生産量日本一を誇ります。
こうした高収益作物の栽培によって、南信の農家一戸あたり農産物販売額は県平均に迫る水準となっています。一方で水田農業が中心の上伊那では農家あたりの販売額が県平均を下回る傾向もあり、多角経営が課題です。
農産物の加工も南信地域の産業特色です。果実や野菜の加工食品、味噌・醤油などの醸造、さらには和菓子製造が古くから盛んで、地域の地場産業として定着しています。
飯田市周辺では、水引細工(祝儀袋などに用いる飾り紐)や凍り豆腐(高野豆腐)の生産が伝統的に盛んで、現在でも全国有数のシェアを占めています。
南信州産の凍り豆腐や半生菓子類、野沢菜などの漬物は国内市場で高い評価を得ており、大手スーパー向けの出荷も多い分野です。例えば高森町の江戸屋漬物店(野沢菜漬け)や、飯田市の老舗和菓子店「一幸堂」のように、全国展開する食品メーカー・菓子メーカーも存在します。
また、農産物の六次産業化(生産・加工・流通販売の一体化)への取り組みも各地で見られます。果樹農家が自らジュースやジャムに加工して販売したり、地元産米で仕込んだ地酒・ワインの醸造所が誕生するなど、新たな付加価値創出が図られています。
近年はスマート農業の導入も始まっており、ドローンによる農薬散布やIoTセンサーを用いた栽培管理など、生産効率向上に向けた実証が行われています。森林資源も豊富で、上伊那地域では地域面積の約8割が森林となっており、上伊那森林組合を中心として、間伐材を利用した木質ペレット燃料や薪の生産が進められています。このように南信の第一次産業は、多様な資源を活かしつつ次世代型の農林業へシフトし始めています。また、一般家庭の薪ストーブ導入率も日本一と言われています。
商業・サービス業、観光の状況
南信地域の商業(卸売・小売業)は、各エリアの中心都市に商圏が集中する傾向があります。
下伊那では飯田市が圧倒的な商業集積地であり、地域全体の小売販売額の約78%を飯田市が占めるとのデータがあります。飯田市街地には大型ショッピングセンターや専門店街が立地し、周辺町村からの買い物客を広く集めています。
上伊那でも伊那市に商業機能が集まり、諏訪エリアでは岡谷市・諏訪市に商店街や郊外型店鋪が発達しています。諏訪地域全体の年間商品販売額は約1,672億円(店舗数1,346店)との統計もあり、人口規模に対して比較的活発な商業活動が行われています。
ただし郊外の大型店進出やEC利用拡大の影響で、中心市街地の商店街衰退や小規模店の廃業も課題となっています。各地で空き店舗対策やテナント誘致、イベントによる集客など商店街活性化策が模索されています。
サービス業では、医療・福祉分野の雇用が年々重要性を増しています。高齢化が進む南信地域では、介護施設や地域医療機関での人材需要が高く、看護師・介護士などの求人が増加傾向にあります。これは小規模自治体のほど産業としての依存が高くなっている傾向があります。
またIT・ソフトウェア関連企業の誘致も一部で進み、飯田市や伊那市にはコールセンターや開発拠点を設ける企業も出始めています。しかし全体としてはサービス業比率は都市部より低めで、第3次産業従事者割合は北信地域などに比べやや小さい傾向です。
これは、雇用吸収力の大きい製造業・建設業が強いためですが、将来的には観光やITサービス分野での雇用創出も期待されています。各自治体ではテレワークオフィス整備やUIターン人材向けの支援を行い、地域課題の解決と新産業育成に取り組んでいます。
例えば伊那市は「デジタル田園健康特区」に指定されており、ドローン配送やモバイルクリニック導入など全国に先駆けたDX施策を実践しています。こうした先端的サービスの展開は今後他地域にも波及する可能性があります。
観光業は南信地域の重要なサービス分野であり、豊かな自然と歴史文化を活かした観光資源が各地にあります。諏訪湖や霧ヶ峰高原、諏訪大社などを擁する諏訪エリアは古くから避暑地・温泉地として知られ、年間を通じて観光客が訪れます。
諏訪湖畔の上諏訪温泉や下諏訪温泉には旅館街が広がり、霧ヶ峰や蓼科高原には別荘地やリゾートホテルもあります。諏訪大社御柱祭(7年に一度開催)は全国的にも有名な祭事であり、多くの参拝客を集め地域経済を活性化につながっています。
上伊那・下伊那エリアでは、中央アルプスや南アルプスへの登山客、天龍峡などの渓谷美を目当てにした観光客が見られます。飯田市周辺は「星空の聖地」として売り出し中で、阿智村のヘブンスそのはらでは満天の星空を楽しむナイトツアーが人気となり観光客を呼び込んでいます。
南信全体の観光客数は年間延べ約429万人(2015年時点)との推計があり、その約7割は県外からの訪問者です。しかし日帰り客が8割以上を占め、宿泊を伴う滞在型観光は限定的であるとも報告されています。
このため各地で滞在促進の取り組みが行われており、農村民泊や体験型観光、星空ツアー、伝統芸能鑑賞イベントなど多彩なメニューで宿泊客の増加を図っています。
三遠南信自動車道の延伸は、静岡県浜松市との距離が大幅に縮み、アクセスが向上すれば、新東名高速経由での観光ルート開発も期待されます。観光業はコロナ禍で一時大きな打撃を受けましたが、現在は回復基調にあり、インバウンド(訪日外国人)需要の取り込みも今後の課題兼チャンスと捉えられています。
主要企業と雇用動向
南信地域には特色ある主要企業が数多く存在し、地域の雇用を支えています。製造業では前述したセイコーエプソン、KOA、ルビコン、多摩川精機などが代表格であり、いずれも地元に根ざしつつグローバルに事業展開する企業です。
セイコーエプソンは諏訪市発祥の精密機器メーカーで、現在も諏訪・塩尻・富士見町・箕輪町など県内各所に生産拠点を置き数千人規模の雇用を生み出しています。
KOA株式会社は箕輪町に本社工場があり、下伊那にも子会社の生産工場を構えるなど電子部品(固定抵抗器)の分野で世界トップクラスの市場シェアを占める企業として地域を代表します。
伊那市のルビコン株式会社(Rubycon)はアルミ電解コンデンサで世界的に有名であり、同社も多数の地元雇用を創出しています。
諏訪地域のニデックインスツルメンツ(旧・日本電産サンキョー株式会社(旧・三協精機))は下諏訪町に本拠を置き、かつて精密部品で飯田まで大規模な工場を持ち、一世を風靡しましたが経営統合を経てニデックグループの一員となりました。
飯田市の多摩川精機株式会社は一度他県資本(三菱電機系)の工場撤退で空いた拠点を引き継ぐ形で設立された経緯があり、地元自治体の要請と支援の下で発展した企業です。
同社は現在、飯田下伊那地域で最大級の雇用者数を抱え、自動車・航空宇宙向けの精密機器メーカーとして地域経済に不可欠な存在となっています。
観光業では星野リゾート系列のホテル(八ヶ岳エリア)などが大きな雇用先となっています。地域内に本社を持たない企業であっても、工場・支店・事業所を構えて地域経済に影響を与えている企業は少なくありません。例えばトヨタ自動車系列の部品工場が阿智村に進出したり、大手コンビニエンスストアの物流センターが飯田市に立地するなど、県外資本の進出も雇用の受け皿となっています。
雇用状況の動向を見ると、南信地域では有効求人倍率が比較的高い水準で推移しています。長野県全体の有効求人倍率(季節調整値)は2023年後半で1.3倍前後ですが、南信を含む県南部ではこれをやや上回る傾向があり、人手不足感が強いとされています。2024年3月新卒予定の高校生に対する求人状況では、南信地域の求人数は2,298件となり前年より1.5%の微減に留まりました(他地域は2~4%減)。地域別では南信が県内で最も求人数が多く、高校生就職希望者に対する求人倍率は約2.95倍と依然高水準です。
特に製造業と建設業では一定の求人が維持され、企業側の採用意欲が高い一方で、求職者側の志向変化もあり内定率は横ばいという傾向が見られます。情報通信業や卸売・小売業では求人の減少が目立ちましたが、宿泊・飲食サービス業ではコロナ禍からの回復を見越して求人が前年より増加しています。
こうした動向から、製造業を中心に正社員募集が堅調である一方、サービス業や小売業では人手不足の深刻化が続いていることが読み取れます。南信地域の企業は総じて慢性的な人材不足に直面しており、中でも技術系人材や介護人材の確保が課題です。
雇用対策として、地域の行政・経済団体も様々な取り組みを進めています。長野県やハローワークはUIターン希望者向けの就職相談会を首都圏で開催し、南信への移住就業を支援しています。
また各市町村では奨学金返還支援制度を導入し、大学などを卒業後に地元企業へ就職した若者に対し、奨学金返済の一部または全額を補助する制度を設けています。例えば辰野町や飯島町では5年間勤務した場合に奨学金を実質全額補助する制度があり、箕輪町・南箕輪村・伊那市・駒ヶ根市などでも一定額の返還補助を行っています。
こうした経済的インセンティブにより、地元就職者の定着とUターン人材の呼び込みを図っています。加えて、南信工科短期大学校(駒ヶ根市)や長野県看護大学(駒ヶ根市)、信州大学農学部(南箕輪村)など地域内の高等教育機関と連携し、地元企業へのインターンシップや求人情報提供を行うなど、人材の地元定着に向けた取り組みも行われています。
企業側でも、働きやすい職場環境づくりやキャリアパス提示に努め、若手人材の確保・育成を模索しています。もっとも、首都圏と比べ給与水準や就業機会の面で不利な点もあり、今後も自治体・企業・教育機関が連携して魅力ある雇用環境を整備していくことが重要といえます。
南信地域経済の課題と展望
南信地域は製造業を中心に堅調な産業基盤を有しますが、いくつかの課題にも直面しています。第一に少子高齢化・人口減少の影響です。地域の労働力人口は長期的に減少傾向にあり、多くの企業で人手不足が慢性化しています。
特に技能を持った若年技術者の確保が難しくなっており、中小企業では後継者不在による事業承継問題も顕在化しています。高度成長期に創業した地元企業の経営者が高齢化する中、従業員の定年退職も重なって技能継承が課題となっています。
第二に産業構造転換への対応です。グローバル競争の激化や円安・資材高騰など経営環境の変化に対し、付加価値の高い製品へのシフトや生産性向上が求められます。諏訪や伊那の工業集積は下請け型から自社製品開発型への転換を図ってきましたが、引き続き研究開発投資やマーケティング力の強化が課題です。またデジタルトランスフォーメーション(DX)の波に乗り遅れないよう、生産現場へのIoT導入や業務のIT化、人材のデジタルスキル向上も地域全体のテーマとなっています。
一方、南信地域には劇的に変化ももたらす明るい展望も広がっています。リニア中央新幹線開業(予定)によって東京・名古屋への時間距離が飛躍的に短縮されれば、人流・物流の革命が起きると期待されています。
飯田市はリニア駅を生かした企業誘致や観光振興計画を進めており、周辺自治体と連携してリニア時代に対応した地域づくりを模索しています。交通網の整備は観光面でもプラスとなり、南アルプスや天龍峡など潜在的観光資源へのアクセス改善による誘客拡大が見込まれます。
また、長野県や地元自治体は積極的な企業誘致策を展開しています。空き工場跡地の有効活用や工業団地の造成により、新たな製造業や物流拠点を誘致しようという取り組みです。近年では精密機器メーカーの工場増設や、県外企業のサテライトオフィス開設といった成果も出始めています。
加えて、地域内の産学官連携によるイノベーション創出も期待されています。信州大学や長野高専など県内教育機関との協働で、航空宇宙部品の共同研究や農業技術の開発プロジェクトが進行中です。例えば伊那市はドローン関連産業の集積を図り、自治体主催のコンテスト開催やスタートアップ支援を行っています。
環境・エネルギー分野も展望の一つです。広大な森林資源と日射量を活かし、木質バイオマス発電や太陽光発電、小水力発電など再生可能エネルギーの導入が各地で検討・実施されています。特に木質ペレットは地域内製材所を核に生産が増えており、地域暖房への利用が進んでいます。
これはカーボンニュートラル時代に向けて地域が果たすべき役割とも合致し、林業の再生と雇用創出にもつながっています。さらに、南信州産の農産物や酒・ワインといった食・地域資源をブランド化し、首都圏や海外に売り込む動きも活発化しています。地理的表示を取得した市田柿をはじめ、ワイン特区に認定された原村のワイン、新ブランド米の開発(伊那市「風さやか」など)といった取り組みが地域経済に新風を吹き込んでいます。
最後に、地域コミュニティと暮らしやすさの面でも展望があります。南箕輪村が「住みたい田舎」ランキング全国1位に輝くなど、南信地域はいくつかの自治体で移住希望者から注目を集めています。自然環境の良さや子育て支援の充実、安全な地域社会といった魅力が評価され、実際に都市からのUIターン定住者も増えつつあります。
人口減少に歯止めをかけるには雇用の場の確保が前提となりますが、前述のような産業振興策や人材支援策により、少しずつ成果が表れ始めています。地域内企業も、働き方改革や女性・高齢者の活躍推進を通じて労働力確保に努め、持続可能な経営を目指しています。
以上のように、長野県南信地域の経済・雇用状況は、精密機械や電子部品に強みを持つ製造業を中心に発展してきました。現在は伝統産業の技術力を活かしつつ、新たな成長産業への挑戦と地域ぐるみの支援策が展開されています。
課題である人材不足や事業承継、高齢化への対応にも取り組みが進んでおり、リニア新幹線開業などの好機を捉えてさらなる地域活性化が期待されます。豊かな自然とものづくり文化に恵まれた南信地域は、今後も地域内外の力を結集して持続的な発展と魅力ある雇用創出が進められています。
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