転職ノウハウ
長野県北信地域の経済・雇用状況2025
北信地域の概要と主な産業
長野県北信地域は、県都である長野市を中心に須坂市、千曲市(旧更埴市)、中野市、飯山市など北部エリアの市町村で構成されています。人口はおよそ60万人弱で、長野市が約37万人と地域全体の半数以上を占めています。
地域の中央を千曲川が流れ、周囲を山々に囲まれた地形で、標高差のある広いエリアに農村部と都市部が混在する構成です。北信地域の経済は多彩で、農林業や伝統産業、観光業が基幹となっている一方、県都を擁することから製造業やサービス業まで幅広い産業が発達しています。
特に精密機械や電子部品の製造分野では、高い技術力を持つ企業が集積しており、健康医療機器や環境エネルギー分野など次世代産業の育成にも力を入れています。
また、果樹やきのこなど農産物の生産が盛んで、それらを加工する食品メーカーも多く立地しています。
観光面では、歴史的文化財や温泉地、スキーリゾートなど全国的に知名度の高い資源を多数抱えており、農業・製造業と並んで地域経済を支える柱となっています。
北信地域主要市の産業規模(2023年)(人口・事業所数等は民営のみ)
市区町村名 | 人口(人) | 民営事業所数(所) | 民営従業者数(人) | 製造品出荷額等(百万円) | 年間商品販売額(百万円) |
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長野市 | 369,937 | 20,882 | 191,853 | 155,536 | 3,782,746 |
千曲市(旧更埴市ほか) | 56,223 | 2,262 | 21,045 | 60,640 | 34,912 |
須坂市 | 49,929 | 2,185 | 19,932 | 37,118 | 73,614 |
中野市 | 41,832 | 2,182 | 19,629 | 35,813 | 44,747 |
飯山市 | 19,170 | 1,166 | 9,926 | 38,531 | 21,496 |
長野市は県内最大の人口と経済規模を持ち、行政機能・商業機能が集中する中核市です。
千曲市(2003年に更埴市・戸倉町・上山田町が合併)は人口約5.7万人で、交通の結節点を活かした産業振興に取り組むコンパクトな都市です。
須坂市や中野市は人口4~5万人規模で、農産物生産や食品加工、精密機械製造など多様な産業が見られる地方都市です。
飯山市は人口約1.7万人と小規模ながら、豪雪地帯ならではの農業や伝統工芸、電子部品製造工場など特徴的な産業を有しています。
上記以外にも、地域内には小布施町・高山村(上高井郡)、飯綱町・信濃町・小川村(上水内郡)、山ノ内町(下高井郡)、野沢温泉村・木島平村・栄村(下水内郡)などの町村が含まれます。
これら市町村では農林業や観光業に比重が置かれ、地域全体として都市と農山村の両面を併せ持つ産業構造となっています。
農林業と伝統産業の現状
北信地域は長野県内でも有数の農業地帯であり、地形と気候を活かした多彩な農産物の生産が盛んです。特に果樹栽培ときのこ栽培は地域を代表する産業となっています。
長野市や須坂市、飯綱町、高山村などではリンゴやブドウ、モモといった果物の生産が盛んで、「信州りんご」など全国ブランドとなる果実類を産出しています。
千曲市の旧更埴地域は「日本一のあんずの里」として知られ、杏子の生産量日本一を誇り、毎年春には一面のアンズの花が観光資源にもなっています。
中野市やその周辺の北信濃エリアは全国有数のえのきたけ(エノキタケ)の産地で、エノキタケの生産量は日本一です。
ブナシメジ、ナメコ、エリンギなどの菌茸類についても県内トップクラスのシェアを持ち、近代的な施設栽培による高い生産性を実現しています。
こうしたきのこ産業の発展には、地元発祥のホクト株式会社(本社:長野市)など大手食品メーカーの存在も大きく、研究開発拠点を置いて品種改良や機能性食品の開発にも取り組んでいます。
稲作も飯山市、木島平村、栄村など千曲川沿いや豪雪地帯を中心に行われており、良質なコメを生産しています。栄村や秋山郷といった豪雪地では山菜や雑穀なども伝統的に栽培・採取されてきました。
飯山市ではアスパラガスをはじめ高原野菜の生産も盛んで、雪深い気候を逆手に取った雪中野菜の栽培や保存(雪室利用)など特色ある農業も行われています。
また、高冷地の信濃町では乳牛を飼育する酪農も見られ、野尻湖周辺ではトウモロコシなどの栽培と合わせ観光農園的な展開もなされています。
果樹については、須坂市・高山村は良質な巨峰やシャインマスカットなどブドウの名産地であり、ワイン用ブドウの栽培にも取り組む農家が増えています。
地域内にはワイナリーも点在し、高山村では数軒のワイナリーが地元産ブドウを使ったワインを製造しています。
リンゴに関しては、長野市や須坂市、中野市、山ノ内町など広域に栽培農家があり、秋には県内外へ「信州りんご」の出荷が盛ピークを迎えます。
加えて、野沢菜は野沢温泉村発祥の伝統野菜で、現在でも各地で漬物用などに作られており、信州を代表する名産品となっています。
林業も地域の一部で重要です。長野市北部(旧戸隠村や鬼無里地区)や信濃町ではスギやカラマツなどの森林資源が豊富で、製材業者による木材生産が行われています。
飯山市や栄村でも古くから林業が営まれ、木材やキノコ原木の生産は地域経済の一端を担ってきました。しかしながら、林業分野では高齢化や木材価格低迷による担い手不足が課題となっており、県や市町村は森林経営管理制度の活用や木質バイオマスエネルギーへの注目など新たな活路を模索しています。
北信地域には、地場の伝統産業や工芸品も色濃く残っています。飯山市は「寺と仏壇のまち」と呼ばれ、江戸時代から続く飯山仏壇の生産が有名です。
飯山仏壇は精緻な木彫りや漆塗りが特徴で、経済産業大臣指定の伝統的工芸品にも指定されています。同市では和紙の「内山紙」も特産で、良質な楮(こうぞ)を原料にした手すき和紙は江戸時代から伝わる技法を今に伝えています。
中野市では中野土人形という土人形の郷土玩具が知られ、春の雛祭り時期には土びなを求める観光客も訪れます。山ノ内町では竹細工(信州竹細工)の工芸が伝承されており、花器や籠などが制作されています。
豪雪地の栄村ではワラを使った民芸品「ねこつぐら」(猫ちぐら)づくりが行われ、ペット用の寝床として人気を博すなど、新たな需要も生まれています。
これら伝統工芸品の多くは職人の高齢化や後継者不足に直面していますが、地域では後継者育成や商品開発支援などの取り組みが進められており、伝統産業の保存と振興が図られています。
製造業と主要企業の動向
北信地域の製造業は、長野県内でも重要な位置を占めます。特に長野市を中心とするエリアには、電子部品や精密機械のメーカーが集積し、県全体の製造品出荷額を牽引しています。
長野市内には新光電気工業株式会社(本社:長野市)など大手の半導体パッケージ製造企業が本拠を置き、関連する電子部品メーカーや装置メーカーも点在しています。新光電気工業は国内トップクラスの半導体パッケージ生産企業であり、市内に開発センターも構えて先端技術開発を進めています。
また、長野市は味噌や食品メーカーも多く、マルコメ株式会社(味噌製造、日本有数の味噌メーカー)や八幡屋磯五郎(七味唐辛子の老舗)など食品分野の企業も地域経済に貢献しています。
須坂市は古くから製糸業で栄えた歴史がありますが、現在では機械・金属加工や食品製造の企業が多く集まる工業都市となっています。同市にはオリオン機械株式会社(産業用冷凍機・空調機器メーカー)や株式会社鈴木(Suzuki)」(精密金属部品加工)などの工場が立地し、グローバルに事業展開する企業も見られます。
食品分野ではフリーズドライ食品製造のアスザックフーズ株式会社が須坂市に本社工場を構え、野菜や味噌汁の具材などの乾燥食品で国内トップクラスのシェアを持っています。
また、大手オフィス家具メーカーの株式会社オカムラは須坂市内に大規模な製造拠点(須坂事業所)を有し、オフィス家具や収納システムの製造を行っています。
交通アクセスの良さから須坂市内の工業団地には企業誘致が進み、現在も中小製造業者の集積が続いています。このように須坂市は「ものづくりのまち」として県内有数の工業集積地となっています。
千曲市(旧更埴市エリア)は、長野自動車道と上信越自動車道の合流点という物流上の利点を活かし、工業団地の整備や企業誘致に注力しています。
千曲市内にはモビリティ関連機器、生活機器の製造販売のエムケー精工株式会社(旧社名:松尾製作所、本社:千曲市)が本社工場を置き、ホームベーカリーなどの自動車関連装置や小型家電などを生産しています。電子部品分野では老舗の双信電機株式会社が千曲市内に技術センター(千曲技術センター)を構え、電子機器向けコンデンサーなどの開発拠点としています。
千曲市は他にも金属加工やプラスチック製品の中小メーカーが点在し、工業出荷額は約606億円(2021年)と周辺市町村より規模が大きくなっています。旧戸倉町・上山田町エリアは温泉観光地として知られますが、戸倉上山田温泉街にも地元向けの食品加工や温泉熱を利用した小規模産業などがみられます。
中野市は農産物の集散地である一方で、製造業も発展しています。同市には精密機械や電子機器部品のメーカーがいくつか立地しており、少人数ながら高い技術力で世界市場に製品を供給する企業も存在します。
株式会社オリオン精工はチラーで世界的に高い評価を得ており、地元の優良企業として知られています。また、医療機器や計測器の分野でも中野市や近隣から部品を供給する企業があり、高度な加工技術に裏付けられた裾野の広い産業基盤が構築されています。食品関連では、中野市産の果実やきのこを使ったジャム・漬物等の加工場が点在し、農工商連携の商品開発も行われています。
飯山市は人口規模こそ小さいものの、意外にも製造品出荷額が市内総生産に占める割合が高い工業のまちです。同市には富士電機株式会社の飯山工場があり、シリコンダイオードや圧力センサー等のパワー半導体製品を製造しています。この工場は旧来からの大口雇用先で、同社の電子デバイス事業の一翼を担っています。また、飯山市はかつてPCディスプレイメーカーの「飯山電機株式会社」(ブランド名「iiyama」)が創業した地でもあります。
同社は2000年代に経営統合を経て現在はマウスコンピューター傘下となり、ブランドは存続しつつ、飯山市内の工場ではパソコンやモニターの製造・組立が続けられています。北信州ではありませんが、長野県内でパソコンを製造するVAIO、セイコーエプソンと合わせ、国内でも数少ないパソコンメーカーの一角が長野県に集まっています。
このように飯山市では電子機器関連の製造業が地域経済を支える柱の一つとなっています。一方で、飯山市には伝統工芸である仏壇産業や和紙製造も根付いており、小規模ながら職人が工房を構える姿も見られます。
製造業と伝統産業が共存する飯山市は、地域資源と先端技術の融合による地域活性化を目指しており、近年は地元の木材や和紙を用いた新商品の開発など第六次産業化的な取り組みもみられます。
そのほか、北信地域には特色ある中小企業が点在しています。上高井郡小布施町は観光地として名高いですが、栗菓子メーカーの桜井甘精堂や小布施堂など和菓子製造が盛んで、地場産業として発展しています。
小布施町は浮世絵師・葛飾北斎ゆかりの地として有名で、北斎館などを中心とした観光土産品(栗羊羹や地酒)の製造販売も地元経済に寄与しています。
下高井郡山ノ内町では、清酒蔵元の玉村本店がクラフトビール「志賀高原ビール」の醸造を行い、全国的な人気商品となるなど新たな産業分野を切り開いています。農産物の加工では、高山村産ブドウを使ったワイン醸造所が誕生したり、須坂市産果実を使ったシロップやリキュールを製造するベンチャー企業が現れるなど、地域資源を活かした小規模メーカーの台頭も注目されます。
北信地域の製造業全体としては、精密機械・電子部品から食品・飲料まで幅広い分野がバランス良く存在している点が強みです。
長野県全域で見ても、情報機器製造業の製造品出荷額が全国1位、電子部品製造業も全国2位といった統計があり、その一翼をこの北信地域が担っています。高い技術力を背景にシェアトップクラスの製品も生み出されており、「日本有数のものづくり拠点」としての地位を確立しています。
一方で、中小企業では人手不足や設備老朽化による生産性向上への課題も抱えており、行政や支援機関による技術支援・補助制度を活用しながら新製品開発やIT導入による効率化に取り組んでいます。
観光業と地域サービス産業
北信地域は観光資源が豊富であり、観光業が地域経済に与える影響も大きくなっています。
長野市には善光寺をはじめとする歴史的観光名所があり、年間を通じて多くの参拝客・観光客が訪れます。善光寺は1400年近い歴史を持つ古刹で、数え年で7年に一度の御開帳には全国から数百万人規模の参拝者が集まる一大行事となります。
また長野市は1998年冬季オリンピック開催都市として知られ、市内には当時のオリンピック施設(エムウェーブ(スケート競技場)、ビッグハット(アイスホッケー会場)など、ホワイトリング(フィギュアスケート・ショートトラックスピードスケート会場)が現存し、現在もコンサート、プロリーグの試合や各種イベントや大会に利用されています。
オリンピックレガシーとして整備された交通インフラや都市機能は、その後の観光振興にも寄与しており、長野駅周辺の再開発やホテル誘致などが進みました。近年ではこれに合わせて作られた有料道路が無料となり、日々の通勤や観光など自動車での移動が中心となる中、経済の下支えにもなっています。
長野市内のサービス産業はこうした観光客やビジネス客を対象にした宿泊・飲食業が発達しており、近年では外国人観光客の姿も多く見られるようになっています。
地域全体では、温泉とスキー(スノーリゾート)が二大観光の柱です。
下高井郡山ノ内町には志賀高原と湯田中渋温泉郷があり、冬季は国内外からのスキー客(近年は海外からが多い)、グリーンシーズンは避暑や登山客で賑わいます。志賀高原は標高1500m前後の高地に大小19のスキー場が点在する日本有数のウインタースポーツエリアで、かつての長野オリンピック、パラリンピックではアルペンスキー競技会場にもなりました。
近年は国外からのスキー客も増え、リゾートホテルやペンションの外国語対応が進むなどインバウンド需要への対応が図られています。志賀高原エリアはユネスコエコパークにも登録されており、手つかずの自然を生かしたトレッキングや高山植物観察など自然観光にも力を入れています。
山ノ内町平穏地区にある地獄谷野猿公苑(いわゆるスノーモンキー公苑)も世界的に有名な観光スポットです。冬に温泉に浸かるニホンザルの姿が「Snow Monkey」として海外メディアで紹介されて以来、外国人観光客が冬季に数多く訪れるようになりました。
野沢温泉村はスキーと温泉の伝統的観光地で、江戸時代から続く外湯巡り文化と良質な雪で知られます。野沢温泉スキー場は戦後日本のスキー黎明期から人気のゲレンデで、現在も若者からファミリーまで幅広いスキーヤー・スノーボーダーを集めています。
村内に点在する13の外湯(共同浴場)は今なお無料開放されており、温泉街の情緒とあいまって国内外の旅行者に人気です。毎年1月には道祖神祭り(どんど焼きの一種、国の重要無形民俗文化財)が行われ、伝統行事を目当てに訪れる観光客も増えています。
近年は欧米豪からの長期滞在スキー客が野沢温泉に拠点を構えるケースもあり、古い旅館をリノベーションしたおしゃれなカフェやバーができるなど新たな観光資源も生まれています。
北信地域にはこの他にも個性的な観光資源が点在します。上高井郡小布施町は栗菓子と北斎で有名な町で、蔵造りの街並みや栗スイーツ目当ての観光客が年間を通じて訪れます。
町内の北斎館には葛飾北斎の肉筆画が収蔵され、国内外の美術ファンを集めています。小布施町はワイン用ブドウ栽培や地ビール醸造など食の観光にも積極的で、「スローフードのまち」として高い評価を得ています。
高山村は松川渓谷沿いに七味温泉や山田温泉など秘湯ムード漂う温泉が点在し、紅葉シーズンには渓谷美を楽しむ観光客で賑わいます。村内には樹齢500年を超える「黒部のエドヒガン桜」など名木もあり、写真愛好家らが春に訪れるスポットとなっています。
信濃町の野尻湖は夏のレジャー(ボート、釣り、キャンプ)で人気があり、湖畔の一軒宿やペンションが避暑客を集めます。冬は湖が結氷しワカサギ釣りも行われます。
飯山市は豪雪を活かしたイベントとして2月に「いいやま雪まつり」を開催し、大雪像やかまくらを目当てに観光客を呼び込んでいます。また同市は市街地に寺院が18も集まる独特の景観を持ち、「寺のまち飯山」として街歩き観光を推進しています。
サービス産業では、長野市を筆頭に商業施設の集積も見られます。長野市には県内最大の百貨店や大型ショッピングセンターがあり、近隣市町村からの買い物客を集める商業圏を形成しています。特に長野駅周辺~権堂地区にかけては商店街や飲食店が集中し、夜間人口も多い繁華街となっています。
千曲市の戸倉上山田温泉街や野沢温泉村、湯田中渋温泉郷などには旅館・ホテルが軒を連ね、観光シーズンには宿泊業の雇用が大きく増える傾向があります。北信地域全体の観光客数は年間延べ数百万人規模に達しており(コロナ前実績)、観光消費額も地域経済を下支えする重要な要素です。
コロナ禍では一時観光客が激減し旅館の休業が相次ぎましたが、2023年以降は感染状況の落ち着きと全国旅行支援策などもあり急速に持ち直しています。ただし、人手不足により宿泊施設・飲食店の受け入れ態勢に課題が生じているエリアもあります。
特に冬のスキー場ではインストラクターやホテルスタッフが慢性的に不足する状況が続いており、海外からの就労者受け入れや地元学生のアルバイト雇用などで補完しています。
雇用情勢と求人・求職動向
北信地域における雇用情勢は、長野県全体の傾向と同様に堅調さと人手不足感が混在しています。長野県は全国的に有効求人倍率が高い水準で推移しており、北信地域も例外ではありません。
直近のデータでは、北信地区の有効求人倍率(季節調整前、パート含む全数)は1.34倍となっており、依然として1倍を大きく上回っています。これは求人数が求職者数を大きく上回っていることを意味し、企業の人材需要が供給を上回る状態が続いています。
特に製造業や建設業、介護・福祉分野では慢性的な人手不足が顕著で、多くの企業・施設が求人を出し続けている状況です。地域別に見ると、ハローワーク長野管内(長野市など)の有効求人倍率は約1.4倍と地域平均より高く、都市部ほど求人が多い傾向があります。
一方、飯山管内(飯山市や下高井郡など)では1.1~1.2倍程度とやや低めで、地域によって求人需要と求職者数のバランスに差が見られます。これは、都市部への人材集中と農村部での就業機会の相対的な不足を反映したものと言え、地域間の雇用格差が課題として浮かび上がっています。
求人数の動向を見ると、2023年から2024年にかけては一時減少と増加が混在する状況でした。新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着き経済活動が再開する中で、宿泊・飲食サービス業や製造業では採用意欲が高まり、新規求人が増加しています。
一方で世界的な部品供給不足や物価高の影響で、一部製造業では生産調整が行われ求人を抑制する動きもありました。直近の2024年下半期には、北信地域でも新規求人が前年を若干下回る月がある一方、正社員希望の求職者増加など労働市場の構造変化もみられます。
総じて有効求人倍率は高水準を維持していますが、求職者側の動向としては「より安定した常用雇用を志向する層」が増えつつあり、企業側も正社員登用や処遇改善で人材確保を図るケースが増えています。
職種別では、北信地域では製造現場の技術・技能労働者や組立工、物流関係(トラックドライバーや倉庫作業)といった職種で求人が多くなっています。
加えて、介護職や看護師など医療福祉分野の求人も常に高水準で推移し、高齢化の進展に伴いニーズが伸びています。観光業が盛んな地域柄、ホテルや旅館のフロント・客室係、飲食店スタッフなどサービス業の求人も季節波動はあるものの定期的に出ています。
とりわけ冬期はスキー場運営会社やリゾートホテルからの募集が多く、専門的な語学スキルを持つ人材の需要も増えています。IT関連や専門職の求人は都市部ほど多くはありませんが、長野市内ではソフトウェア開発や通信インフラ関連の企業が少数ながら存在し、エンジニア職の採用も旺盛です。
UIJターンを促進する施策として、地域の中小IT企業が首都圏からの移住技術者を積極採用する動きも出ており、完全テレワークではなく地方オフィス勤務による人材確保に取り組む例も出始めています。
一方、求職者側の傾向として、北信地域では地元高校・大学を卒業した若年層の県内就職率が高い反面、東京圏への流出も依然見られます。長野市を除く地方部では若年人口が減少しており、中小企業は人材確保に苦戦する状況です。
このため、企業や自治体では合同企業説明会の開催やインターンシップ受入れ、移住希望者向け求人情報発信など、幅広い層へのアプローチを強めています。
また、高齢者や主婦層の労働参加も重要になっており、短時間正社員制度の導入や在宅勤務可能な職種の創出など、多様な就労機会づくりが模索されています。北信地域の失業率は直近では概ね2%台前半と低位安定しており、全国平均よりも良好です。
これは地域の企業が雇用維持に努めていることや、農業・自営を含め職が見つけやすい環境にあることが背景と考えられます。ただし、これは裏を返せば人手不足の表れでもあり、今後も地域経済が成長するためには、働き手の確保と人材育成が大きな鍵となるでしょう。
地域経済の課題と展望
北信地域の経済は多様な強みを持つ一方、いくつかの課題にも直面しています。第一に人口減少と少子高齢化の進行です。地域の総人口はピーク時から減少に転じており、とくに飯山市や郡部の町村では顕著な人口減が続いています。
長野県の推計では、北信地域(長野市周辺を除く北部)の人口は2017年約8.6万人から2040年には約6.4万人まで減少すると予測されています。労働力人口の縮小は地元産業の担い手不足に直結し、製造業や農業・林業、サービス業の現場で後継者難が深刻化しています。
伝統工芸なども含め、技能の伝承者がいないまま事業終了となるケースも出ており、地域資源の継承という観点でも人口減は大きな課題です。自治体や商工団体は移住促進策や結婚・出産支援など定住人口の維持に取り組んでいます。
今後は、都市圏からのUIターン希望者に向けた受け皿づくり(例えばテレワーク拠点の整備や地域起業支援)や、地域内の女性・高齢者の就業環境整備による潜在労働力の活用が一層重要になると考えられます。
第二に産業構造の転換への対応です。北信地域では製造業が盛んですが、グローバル競争や技術革新のスピードが増す中で、中小企業の中には変化に対応しきれないところもあります。
例えば、自動車部品産業では電動化や供給網再編の波が押し寄せており、関連部品を手がける事業者は新分野への転換や高付加価値化が求められています。また、気候変動の影響による農業への打撃(台風や酷暑による果樹被害など)も懸念材料です。
2019年の東日本台風(台風19号)では千曲川堤防の決壊により長野市北部の工業団地やリンゴ園が浸水し、多くの企業・農家が被災しました。北陸新幹線の車両が大量に水没した映像も全国的に水害の恐ろしさを印象付けました。こうした自然災害リスクへの備えも企業経営上重要になってきています。立地する企業の中では、敷地全体を浸水防止塀を設けているところもあります。
地域としては、防災インフラの強化はもちろん、レジリエンス経営(事業継続計画の策定や二重経路の物流確保等)を産業界に促し、災害に強い経済構造を築くことが進められています。
さらに、観光産業においては需要の変動と人材確保が課題です。コロナ禍で痛感されたように、外的要因による観光需要の落ち込みは地域経済へ直接打撃となります。
平時から複数のマーケットに依存しない観光戦略が必要とされ、例えば国内ファミリー層向けのグリーンシーズンイベントの充実や、ワーケーション誘致による平日需要の創出などが検討されています。
また、旅館業では後継者難により廃業する老舗も出ており、地域資源である温泉街の維持にも影響が出かねません。行政は事業承継支援や旅館の公募売却支援なども行い、可能な限り地域の観光資源を守る取り組みを進めています。
一方、北信地域には多くの機会と強みも存在します。交通アクセス面では、北陸新幹線の延伸開業(2015年金沢まで延伸、飯山駅開業)により、飯山市や周辺の観光地が首都圏・北陸圏からアクセスしやすくなりました。これに伴い、飯山駅周辺では道の駅整備や観光拠点施設の開業など、新たな交流拠点づくりが進んでいます。
高速交通網の発達は企業誘致にも寄与しており、上信越自動車道や長野道沿線では工業団地の分譲が概ね完売状態になるなど、県外企業の進出も見られます。今後は、新幹線による交流人口の増加を地域産業に繋げる戦略が求められます。例えば農産物直売所や体験型観光を充実させて都市住民との接点を増やし、移住や二地域居住につなげる取り組みが各地で始まっています。
また、地域内の産学官連携も活発化しています。長野市には信州大学工学部(長野キャンパス)があり、地元企業と連携した研究開発や人材育成が行われています。
精密・電子産業が集積する強みを活かし、県や大学は「次世代産業技術の研究開発拠点」として長野地域を売り出しています。具体的には、ヘルスケア機器や環境技術、ICT分野で地域発のベンチャー支援や共同研究プロジェクトが進行中です。
こうした新産業の創出は将来的な雇用機会の創出にも繋がるため、地域経済の持続可能性を高めるものとして期待されています。加えて、県の企業立地優遇策(補助金・税制)を活用し、工場の新増設や研究所誘致も促進されています。実際に近年では、長野市や千曲市に県外企業の生産拠点が新設され、地元で数十名規模の新規雇用が生まれるケースも出ています。
総じて、長野県北信地域の経済状況と雇用状況は、安定した基盤産業に支えられつつ、新たな展開に向けた転換期にあります。
農業では高付加価値化と担い手育成、製造業では技術革新対応と人材確保、観光業では付加価値向上と持続可能な体制づくりが、それぞれ課題でありチャンスでもあります。地域の企業・自治体・住民が一体となり、伝統と革新を融合させた地域づくりを進めることで、北信地域は今後も魅力的で活力あるエリアとして発展していくことが期待されます。
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