転職ノウハウ
長野県中信地域の経済・雇用状況2025
中信地域の概要
長野県中信地域は、県の中央西部に位置し、松本市を中心とした経済圏を形成しています。北アルプス連峰や安曇野平野、木曽路など豊かな自然と観光資源に恵まれた地域で、人口は約52万人です。
主要都市には県中部の中心都市である松本市のほか、交通の要衝で産業都市の塩尻市、美しい田園風景で知られる安曇野市、北アルプスへの玄関口となる大町市などがあります。木曽地域の山村(木曽町や上松町など)が含まれます。
地理的に東西南北へ幹線交通が発達しており、北方向には国道147号・148号とJR大糸線(新潟県糸魚川方面へ)が、南方向には国道19号とJR中央本線が縦断し、中山道や甲州街道などの街道沿いに古くから発展してきました。
また、県内唯一の空港である信州まつもと空港(松本空港)が所在し、現在はFDAにより、福岡便と札幌便の定期便(現在は神戸とも継続的に運行)と、JALの季節運航便しており、地域の航空アクセス拠点となっています。
中信地域の産業は製造業とサービス業がバランスよく集積している点が特徴です。令和3年(2021年)の経済センサスによれば、松本・塩尻・安曇野市などから成る松本地域では製造品出荷額が約9,500億円に上り、長野県全体の約27%を占めています。
特に機械器具関連産業が地域の製造業の中心で、その出荷額は約4,750億円(地域製造業全体の約半分)に達し、関連事業所が約228社集積しています。また電子部品・デバイス産業も35社ほどが集まり、約846億円の出荷額を占めています。
一方、民営事業所全体で見るとかつて商都と呼ばれた地域で、卸売業・小売業の事業所数が最も多く、地域経済に占めるサービス業の比重も大きくなっています。
人口当たり事業所数も50.9(千人あたり)と県平均をわずかに上回り、昼夜間人口比率は100.2とわずかに昼間人口が多いなど、松本市を中心に周辺から人・サービスが集まる経済圏になっています。
主要産業の現状と特徴
精密機械・電子部品産業(製造業)
中信地域は長野県内でも有数の製造業集積地です。
松本市や塩尻市、安曇野市周辺にも、電子機器・部品の大手企業工場が立地しています。安曇野市には村田製作所グループのアズミ村田製作所があり、スマートフォンなどに使われる「チップフェライトビーズ」等のノイズ除去フィルタを生産しています。
また、デンソーエアクール(旧社名:GAC)(安曇野市)はデンソー系列で自動車・建機用エアコンや冷凍機を製造しており、約661名の従業員を擁するなど地域有数の規模を持ちます。加えて、家電量販店のコジマグループとなった、ソニーのPC事業を継承したVAIO株式会社は2014年の独立以来、安曇野市に本社工場を構え、高性能パソコンの開発・製造を続けています(「安曇野FINISH」と称する独自の高品質組立工程で知られます)。
近年では、精密制御用減速機で世界トップシェアを持つハーモニック・ドライブ・システムズ社も安曇野市内に大規模工場(穂高工場・有明工場)を構え、産業用ロボット向け部品を生産しています。
さらに、2022年にはミネベアミツミ株式会社がコネクタ製造の老舗である本多通信工業をグループ化し、安曇野市堀金に最新設備の工場(安曇野本多通信工業株式会社 穂高工場)を稼働させました。この工場では電子機器用コネクタやワイヤーハーネスの製造・物流を担っており、地域の新たな雇用創出につながっています。
塩尻市にもハイテク産業の集積が見られます。塩尻市内の広丘地区にはエプソンの広丘事業所があり、プリンター関連の開発拠点となっています。隣接する茅野市(諏訪地域になりますが)では、半導体製造装置大手の株式会社ディスコが2018年に茅野工場を新設し操業開始、さらに2019年には約175億円を投じて免震構造の新棟増設を決定するなど、半導体関連需要の拡大に対応した大規模投資が行われました。このように、中信(諏訪を含む広義の中信)地域では精密機械からエレクトロニクス、さらには近年需要の高まる半導体製造装置分野まで、多岐にわたる製造業が集積している点が強みです。
他方で、木工・家具などの伝統産業もこの地域ならではの特徴です。松本市内には木工団地と呼ばれる木工業の集積を狙った工業団地も立地しています。木曽谷は良質な木曽ヒノキの産地として有名で、木曽漆器や木工家具といった木製品製造業が古くから営まれてきました。
塩尻市奈良井宿や木曽平沢といった宿場町には漆器の工房が軒を連ね、現在も伝統工芸品としての生産が続いています。松本市も「松本民芸家具」に代表される家具工芸の産地であり、美しいデザインと堅牢な造りで知られる民芸家具を製造・販売する企業があります。こうした木製品製造業は大量生産ではありませんが、地域の伝統文化と観光資源とも結びつき、海外での人気も高まり、地場産業として息長く存続しています。
食料品・飲料・農林業
中信地域も長野県特有の標高差を活かした農業が盛んで、これを基盤とする食品産業も地域経済の重要な一角です。安曇野や松本平では稲作のほか、野菜や果樹の栽培が行われ、特に安曇野市は日本有数のワサビ生産地として知られています。
北アルプスからの清冽な湧水に恵まれた大王わさび農場(安曇野市)は、年間百万人規模の観光客が訪れる名所であり、わさびを使った加工食品(漬物や調味料など)を製造・販売しています。
また松本盆地周辺はレタスやハクサイなど高原野菜の産地でもあり、塩尻市・山形村では長芋の栽培も盛んです。サラダ街道と呼ばれる道路があるほど大きめの規模で栽培が行われています。こうした農産物の加工・販売に関わる食品製造業の事業所数は、中信地域で他の地域に比べ最も多い規模となっています。総菜(惣菜)や農産物加工品の製造など、中小の食品メーカーが各地に点在し、地域の農産物を原料にした商品開発が行われています。
特筆すべきは酒類・飲料製造業の集積です。松本平から諏訪にかけてのエリアは清冽な水に恵まれることから、日本酒やワインなど醸造業が発達しました。
塩尻市桔梗ヶ原は明治以来のブドウ産地で、現在も塩尻ワインの産地として知られます。桔梗ヶ原ワインバレーには老舗の井筒ワインや五一ワインをはじめワイナリーが集まり、近年はワイン特区の認定を受けて新規参入も進んでいます。
また安曇野市や松本市周辺にも小規模ながら個性的なワイナリーが誕生しています。清涼飲料水製造も盛んで、松本市にはリンゴジュースや牛乳など飲料メーカーの工場が立地しています。
実際、中信地域の飲料製造事業所数は県内4圏域中で最も多い水準にあり、ワインやジュースなど多彩な飲料の生産拠点となっています。
林業も木曽地域を中心に重要です。木曽谷では江戸時代から「木曽五木」に数えられる檜やサワラなど貴重な森林資源の伐採が厳しく管理されてきました。現在も木曽産木材は高級建材として評価が高く、製材や木工品製造といった林産業が地域経済を支えています。
また松本市奈川地区などでは昔ながらの炭焼きや木炭生産も行われています。農林水産業は就業人口こそ減少傾向にありますが、地域ブランド産品(例えば松本市の松本一本ねぎ、塩尻市の紫米、安曇野市の安曇野パープル〈ぶどう〉等)を生み出し、観光や6次産業化と結びついた新たな展開も模索されています。
観光・サービス産業
豊かな自然環境と歴史的資源に恵まれた中信地域では、観光業および関連するサービス産業が地域経済の重要な柱です。松本市には国宝松本城をはじめ、上高地・乗鞍高原(松本市)、美ヶ原高原(松本市・長和町)など国内外から観光客を集める名所があります。
コロナ禍前の平成29年(2017年)時点で松本市の年間観光入り込み客数は約512万人に達しており、近年はインバウンド(訪日外国人)需要の増加もあって回復基調です。
実際、令和5年(2023年)の松本城有料入場者数は約76万人となり、コロナ前の2019年水準(約76万人)にほぼ迫りました。
安曇野市も山岳景勝地の燕岳登山口や碌山美術館等の文化施設があり、年間観光客数は約200万人規模に上ります。大町市は立山黒部アルペンルートの長野県側玄関口として海外観光客にも人気です。
木曽地域では中山道沿いに江戸時代の宿場町(奈良井宿・妻籠宿・馬籠宿など)の町並みが保存され、国内外の旅行者が歴史散策に訪れます。
観光産業の発展に伴い、宿泊業・飲食サービス業が地域の雇用を支えてきました。松本市中心部にはビジネスホテルから高級旅館まで多様な宿泊施設が立地し、近年では外国人観光客増に合わせてゲストハウス等も増加傾向です。
また松本市や安曇野市は美術館・博物館が多く、文化観光の拠点にもなっています。例えば松本市は「音楽のまち」としてセイジ・オザワ松本フェスティバル(旧サイトウ・キネン)など国際音楽祭を開催し、多くの集客を生んでいます。
こうしたイベントや観光客の消費は小売業・飲食業にも波及しており、商店街や土産物産業にも活気を与えています。ただし近年は観光客数が増加する一方で、夏季のオーバーツーリズム(観光客過多)やマイカー渋滞などの課題も指摘され始めており、松本市では公共交通の活用促進や受入環境の整備に取り組んでいます。
観光以外のサービス産業では、卸売業・小売業が地域内事業所数で最大となっています。松本市は中信の商業集積地であり、大型ショッピングセンターや専門店街が揃います。近年、松本駅前では再開発ビルに全国チェーンの商業施設が進出する一方、中心市街地の個人商店街は高齢化や後継不足で店舗減少も見られます。
塩尻市や安曇野市など郊外型の郡部ではロードサイド店の出店が目立ち、商業の形態も変化しています。医療・福祉分野もサービス業の中で著しく伸びている領域です。高齢化の進行に伴い、有料老人ホームや介護施設、福祉サービス事業所が各地で開設されており、事業所数・従業者数ともにこの10年で大幅に増加しています。
松本市には信州大学医学部附属病院という基幹病院があり、周辺に関連する医療機関や福祉施設が集中しています。加えて、医療機器開発を支援する産学官の取り組み(信州医療機器事業化開発センターなど)もあり、地元製造業者の医療分野への参入も促されています。こうしたヘルスケア関連産業は今後一層の需要増加が見込まれ、地域の雇用創出源としても期待されています。
雇用情勢と求人動向
中信地域における雇用状況は、県内他地域と比べて堅調な面がみられます。公共職業安定所(ハローワーク)の統計によれば、令和7年2月時点の有効求人倍率は中信地域で1.44倍となり、北信・東信・南信の各地域を上回り県内で最も高い水準でした。
これは求職者1人に対し約1.44件の求人がある計算で、人手不足感が比較的強いことを示しています。特に松本公共職業安定所管内や木曽福島公共職業安定所管内では有効求人倍率が1.4~1.5倍台と高く、地域内でも求人の多いエリアとなっています。
こうした傾向の背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少で求職者数が伸び悩む一方、観光需要の回復や製造業の生産拡大により企業の採用意欲が高まっていることが挙げられます。
実際、2025年初頭の長野労働局発表によると、県内の有効求人数・求職者数はいずれも前年に比べ増加し、企業の人材確保意欲と求職者の就労意欲がともに活発化していると分析されています。
産業別の求人動向を見ると、医療・福祉分野の求人が際立っています。令和7年2月には長野県内で医療・福祉分野の新規求人が2,724件に上り、業種別で最も高い水準となりました。中信地域でも高齢者施設の増設などにより看護師・介護士などの需要が高く、慢性的な人手不足が課題です。
一方、製造業や宿泊・飲食サービス業では同月の新規求人が前年同月を下回る傾向がみられました。製造業は一部で海外生産移管や設備投資サイクルの影響により求人が減少し、宿泊・飲食業もコロナ禍からの回復途上とはいえ繁忙期以外の求人抑制が続いています。
その反面、運輸業・郵便業や不動産業では求人が増加しており、業種により人手需要の明暗が分かれています。このように、業種別・地域別に雇用環境の差が出ているのが実情であり、企業の採用担当者にとっては地域特性や業界動向を見極めた人材戦略が求められる状況です。
求人の職種面では、中信地域では製造業の技術者・製造オペレーターから観光サービス業の接客スタッフ、さらに医療・介護の専門職まで、多様な人材ニーズが存在します。
松本市など都市部ではITエンジニアや営業職の求人も一定数見られ、県外からUIJターン人材を呼び込む動きも活発化しています。生産技術職や看護師職は常に募集が多く、経験者は比較的採用されやすい傾向にあります。一方で、小売・サービスの非正規求人も多く、若年層の流出や人手不足に対応するため待遇改善や正社員登用を進める企業も増えています。
地域経済の課題と展望
中信地域の経済・産業は概ね堅調に推移していますが、長期的な視点ではいくつかの課題が指摘されています。
まず、製造業の空洞化リスクです。2000年代後半からの急激な円高局面や2008年のリーマンショック以降、国内製造業は海外移転を加速させました。長野県全体でも2006年から2012年にかけて製造業事業所数が12,714所から11,658所へ、従業員数も233,289人から213,501人へ減少しており、中信地域でも精密機械分野を中心に工場の統廃合や人員縮小が進んだ企業があります。
例えばセイコーエプソンは生産拠点の再編を進め、開発機能に資源を集中させるため、一部機能を県外・海外に集約する動きを見せました。また地場中小企業でも後継者難や人件費高騰から廃業・縮小を余儀なくされる例がみられます。
このような製造業の縮小傾向に加え、卸売・小売業も人口減少や消費低迷を背景に事業所数・従業員数が減少傾向となっています。郊外型店へのシフトやEC(電子商取引)の普及もあり、伝統的な商店街ビジネスは苦戦を強いられています。
一方で、中信地域には明るい展望も存在します。まず、製造業については全体としての減少傾向に歯止めをかけ、高付加価値型産業への転換を図る動きがあります。
地域企業の中には世界シェアトップクラスのニッチ製品を持つ例も多く(精密減速機や光学部品、健康機器など)、技術力を活かした新分野進出や製品開発が続いています。
行政もこれを支援するため、産学官連携で研究開発拠点の誘致や人材育成を推進しています。長野県は「本社機能移転促進」や「企業の研究所誘致」を重要施策に掲げており、県と市町村が一体となって首都圏企業のR&D拠点誘致に取り組んでいます。
実際、過去10年間で長野県内には毎年のように企業の研究所が立地しており、全国的にも神奈川・京都に次ぐ誘致実績を上げています。
中信地域でも松本市や塩尻市の工業団地に県外企業の研究開発拠点が進出するケースがみられ、地域全体の産業高度化に繋がっています。今後も環境・エネルギー、医療・ヘルスケア、次世代モビリティといった成長分野の企業誘致に重点を置き、地域内に高い付加価値を生み出す雇用の場を確保していく方針です。
また、デジタル化やリモートワークの普及は地方圏に新たなチャンスをもたらしています。中信地域は自然環境や生活環境の良さから移住希望先として人気が高く、近年は東京圏からIT企業のサテライトオフィス開設やテレワーク移住者の受け入れが進んでいます。
松本市は「デジタル田園健康特区」として医療×ITの実証実験を行うなどデジタル産業の集積を目指しています。さらに観光分野では、コロナ禍を経てアウトドアやワーケーション需要が拡大しており、白馬・安曇野エリアでの長期滞在型観光の促進や、外国人観光客の周遊促進策(多言語対応や観光コンテンツ整備)が進められています。これらは地域サービス産業の活性化と新規ビジネス機会の創出につながるでしょう。
加えて、中信地域の各自治体は定住・移住促進による地域活力向上にも取り組んでいます。松本市や安曇野市では企業と連携した子育て支援や住宅支援策を拡充し、若年層や子育て世帯の流入を図っています。安曇野市は自然志向の移住者に人気があり、地元企業もUターン・Iターン人材の採用を積極化させています。
労働力人口の確保は地域経済の持続性に直結するため、行政・経済界を挙げた人材誘致策が重要です。その一環として、地元高校・大学と産業界のマッチングやインターンシップ推進により、若者の地元定着率向上を目指す動きもみられます。
総じて、長野県中信地域の経済・雇用状況は、製造業を中心に伝統的な強みを維持しつつ、医療福祉や観光などサービス分野の伸長によりバランスの取れた構造になりつつあります。
日本全域での課題もある少子高齢化やグローバル競争といった課題は抱えるものの、高度な技術力や豊かな地域資源を武器に、地域内企業のイノベーションと外部からの投資・人材流入を促進することで持続的発展が期待できるでしょう。
今後も産官学の連携によって課題解決型の地域戦略を進め、「選ばれる地域」としての魅力を高めることが、中信地域全体の活力維持につながると考えられます。
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